ORAC(Oxygen radical absorbance capacity:酸素ラジカル吸収能)とは1992年に米国農務省(USDA)の栄養データラボ(NDL)と国立老化研究所(National Institute on Aging)で開発された「抗酸化力」を示す値で、活性酸素消去能を数値化したものです。(PDFファイルはこちらです)
活性酸素とは。
私たちが生きていくためには酸素は不可欠ですが、身体に取り込んだ酸素の一部は他の分子と結び付いて高い酸化力を持つ活性酸素に変化します。
活性酸素の主な働きは殺菌作用による「細菌・ウイルスの撃退」ですが、必要以上に増え過ぎると活性酸素が細胞を酸化させ、単に老化を早めるだけでなく、肌細胞の攻撃による肌の衰え、内臓機能の低下、血管の老化による動脈硬化、がん細胞の増殖、など様々な疾病の原因になると言われています。
活性酸素を減らす抗酸化力とは。
活性酸素は電子が不安定な状態の分子なので、そこに電子を与えて分子の構成を変えれば酸化力がなくなり無害化することから、体内では活性酸素の働きを阻止する物質も作っていて、その物質の働きを抗酸化力と言います。
抗酸化物質は、酵素、ビタミン、ポリフェノールなどのフィトケミカル、タンパク質、など多様ですが、①活性酸素の発生を抑えるもの②活性酸素の酸化力を抑えるもの③活性酸素により受けた被害を修復するものなど、働き方がそれぞれ異なります。
抗酸化力を強化するには。
睡眠不足、乱れた食生活、ストレス、紫外線、喫煙・過度な飲酒などに留意して生活習慣を整えて活性酸素を減らすことが大切です。
それに加えて、体内で作られる抗酸化物質を補助するために食品で多様な抗酸化物質を取り入れることが、病気(心臓疾患、アルツハイマー病、癌、糖尿病など)や更年期障害の予防、免疫力の改善、アンチエイジング(老化防止)等に効果があると言われています。
ORAC値はあくまでも抗酸化力の一つの目安。
なお、USDAは「ORAC値は健康食品やサプリメント業者などによって製品の宣伝に誤用されており、 数値が実際に健康に影響する確たる証拠はなく、食品の抗酸化分子には幅広い機能があり抗酸化能はORACだけでは十分に評価することはできない」、「がん、冠動脈疾患、アルツハイマー病および糖尿病などの様々な慢性疾患の予防または改善に役割を果たすことが理論化されている多くの生物活性化合物がある。しかしながら、関連する代謝経路は完全には理解されておらず、未だに定義されていない非抗酸化メカニズムが原因であるかもしれない。ORAC値は、食品および栄養補助食品製造会社が自社の製品を宣伝し、消費者が食品および栄養補助食品の選択肢を導くために日常的に誤用されています。」との理由で2012年にサイトから各食品のORAC値を削除しています。
ORAC値はあくまでも一つの目安として参考にするのがいいでしょう。
日本ではどうか。
日本では、一般社団法人日本食品分析センターがORACを分析しています。
「アメリカ農務省(USDA)で開発された抗酸化力評価法です。ラジカル発生剤 AAPH から発生したラ ジカルの消去能を抗酸化力として評価致します。弊財団では 50%エタノールでの抽出液について測定 を行います(「ORAC」)。またそれとは別に USDA の方法に準じて,水溶性(H)-ORAC と脂溶性(L)- ORAC をそれぞれ抽出・測定して算出する「Total-ORAC」も受託しております。 」とあります。(https://www.jfrl.or.jp/storage/file/769.pdf 日本食品分析センターのHPより引用)
実際のORAC値は。
では、各食物のORAC値は実際どうなっているのでしょうか。
ネットで検索すると米国でのいくつかの検査レポートが出てきます。USDAの正式データベースからは削除されていますが、USDAのいくつもの研究論文がORAC検査結果を公表しているので、それらから以下の4データをご紹介します。
1. USDA発表のORACデータベース2010から引用(現在閲覧不可)
Trolox equivalent antioxidant capacity (TEAC)micromolTE/g
* ナツハゼのORAC値は日本食品分析センターの値
2. http://www.anteaoxidant.com/orac_top100.html
USDA の栄養データラボ(NDL)が発表した数値
Trolox equivalent antioxidant capacity (TEAC) micromolTE/100g
3. https://www.ars.usda.gov/oc/fnrb/fnrb499/
ORAC units per 100 grams (about 3 ½ ounces)、
Trolox equivalent antioxidant capacity (TEAC) micromolTE/100g
ARS is the chief scientific agency of the USDA
4. https://ja.wikipedia.org/wiki/酸素ラジカル吸収能
wikipediaにある、USDAがAgricultural Research Service (2012年5月16日)で公開していた食品のORAC値
これらは数値の単位や検査媒体が異なることから単純には比較できないため、主要な果実について上記4データの値を抜き出して表にしました。
果実・野菜名
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データ1USDA-DB
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データ2USDA-NDL
|
データ3USDA-ARS
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データ4USDA-wikipedia |
ナツハゼ |
190.0 |
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エルダーベリー |
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14,697 |
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アサイー |
102.70 |
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プルーン |
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5,770 |
14,582 |
野生種ブルーベリー |
96.21 |
|
|
13,427 |
クランベリー |
90.90 |
9,584 |
|
|
西洋クロスグリ |
79.57 |
|
|
|
ブラックベリー |
59.05 |
5,347 |
2,036 |
7,701 |
ブルーベリー |
46.69 |
6,552 |
2,400 |
9,019 |
赤フサスグリ |
33.87 |
|
|
|
皮付きりんご |
30.49 |
4,275 |
|
|
ケール |
|
|
1,770 |
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ストロベリー |
|
|
1,540 |
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ほうれん草 |
|
|
1,260 |
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ラズベリー |
|
4,882 |
1,220 |
6,058 |
プラム |
|
|
949 |
4,844 |
さらにこれらの値が相対的にどのような関係にあるかを可視化すべく、ブラックベリーの値を基準にスケールを揃えてグラフ化しました。
系列1のmicromolTE/gを 100倍して、micromolTE/100gとした値をY軸にしています。系列2、3、4は表の値を元にY軸を調整しています。
食品によりデータが不足していますが、4データとも概ね同じ傾向を示しています。